Essay


●●● 山のくらし ●●●

 

 山のくらしには約束があります。
 「木の実を拾うなら、自分たちが食べられる分だけに。山菜やキノコを採るなら、来年の株を残すように。鳥や動物たちの分まで、採ってしまわないように」
 自然の懐の中では、自分も、鳥や虫や魚と同じ、ひとつの個体に過ぎないと、感じることが度々あります。鳥とヒトとでは、命の大きさを同じ計りにかけることはできませんが、生きる条件はみな同じです。全ての生き物が太陽と、空気と、水を必要としていて、互いに餌になったり、肥料になったりしながら、複雑に関係しあい、共生しているのです。そのしくみの素晴らしさは、どれほど多くの言葉を並べても、表現できるものではありません。自然界の秩序に、無駄 はなく、私たちが手を加える余地はないのです。というより、ないはず……デシタ。
 現実には、ヒトが自然界のバランスを随分と崩してしまいました。
 それは毎日、進行形です。
 動物や植物たちは寡黙ですから、彼らが大声で訴えることはありませんが、それだけに、私たちが彼らを気遣い、愛情と謙虚さを示さなければいけません。
 「採りすぎない」という約束は、小さいけれども、大切なこと。それを実感して、実行できる人だけが、山にくらすべきなのです。

(2002年の個展『山のくらし』より)


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