Essay


●●● 草木染め ●●●

 

 草木染めをしている時ほど、自然の恩恵と、人の知恵を感じることはありません。庭にある、あらゆる植物が染めの対象になりますが、綺麗な色を出すには、先人の知恵とちょっとした薬品と、試行錯誤が必要です。
 ピンク、紫、オレンジなど、鮮やかな色の出る植物もありますが、やはり薄緑、黄色、グレー、茶、ベージュなど、地味な色が草木染めの醍醐味です。花、葉、茎、実、根など、あらゆる部分が染めの材料になります。
 ひとくちにグレーといっても、緑がかったグレー、赤味のあるグレー、シルバーグレーなど、考えてもいなかったような複雑な色が出てきます。染める時期、温度、湿度、染める素材などによっても、仕上がりの色が随分変わります。
 媒染も、染め色を左右する大切なポイント。銅、鉄、アルミなどの鉱物を使うこともあれば、空気媒染といって、空気に触れるだけで発色するものもあります。自然と化学の融合……といったら少々大袈裟かもしれませんが、ちょっとした化学実験であることに間違いはありません。染液のペーハーを調節したり、中和させたり、薬剤を混ぜたり、試行錯誤を繰り返しながら、素敵な色を作り出していくのです。
 後日、同じ条件で、同じ素材を染めても、全く同じ色に仕上がることはまずありません。その時々の気候、植物の成長具合、煮る火力など、全ての条件がピタリと揃うことはないからです。
 草木染めは一期一会。ふたつとない色が、また魅力なのです。

(2002年の個展『山のくらし』より)


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