Essay


●●● きんちゃく袋 ●●●

 

 大学生時代、洋裁に凝って、色々なものを作った。一番多く作ったのは、パジャマかもしれない。あれは、出来が悪くても表へ着て出るわけではないから、気が楽なのだ。
 きんちゃく袋は、ミシンで作る小物の中で一番簡単なもの。学校の家庭科でも、最初に習う。端切れ布が出ると、幾つも作って楽しんだ。

 実をいうと、肥後の守と並んで収集しているものに、きんちゃく袋がある。
 もちろん、きんちゃく袋ならなんでもいいというわけではなく、ある種のものに限っている。刺繍やレースの付いた、可愛らしいもの。繊細で、美しいもの。そして、サイズの小さいもの。これらは滅多に使わないで、ただ、眺めて楽しむだけだ。細かい刺繍やレースの入ったハンカチもセットで集めている。これらを眺めていると、なんとも、ロマンチックで乙女チックな気分に浸ることが出来る。「私らしからぬ 趣味だなぁ」と自分でも思うくらいだから、他人が見たら、ちょっとびっくりするかもしれない。

 徹夜で疲れている時など、この繊細で可愛らしいきんちゃく袋たちを取り出して眺めると、元気が出る。どこか素敵なところに意識が飛んでいくような気がする。それがイギリスかフランスか、はたまたタイかベトナムか、とにかく手作業で刺繍をしているきんちゃくの作者のところへ心が飛んでいくのだ。アロマオイルや香り袋と同じように、私をリラックスさせてくれるアイテムになっている。
 ところが、ある晩、可愛らしいきんちゃく袋やレースのハンカチを、一枚一枚手にとって、眺めていてる自分の姿が、あるイメージと重なった。それは、盗んだ女性の下着をテーブルに並べて喜んでいる、変態の男だった。刺繍やレースに胸ときめかせて、手にとっては並べ直したりして、最後は大事に引き出しにしまう。
 それも微笑みをたたえて。何とも大事そうに……。
 だから、この趣味のことは、人にはあまりいわないようにしている。

(2000年10月の個展『心の図鑑』より)


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