Essay


●●● お面 ●●●

 

 今でも、八のつく日(八日、十八日、二十八日)には、新井薬師寺の境内に縁日が立つ。その日は何度となく「パンパン」と合図の花火が上がるので、子どもでも見逃すことはない。私も、ほぼ毎回行っていた。
 出ている露店は、今の縁日と随分違って、子ども相手が多かった。今は、どちらかというと、年輩の方をターゲットにしている店が多い。昭和四十年代、五十年代の縁日といえば、金魚すくい、ヨーヨー釣り、綿菓子、あんず飴、ハッカパイプ、ソース煎餅、お好み焼きに焼きそば、味噌田楽といったところが常連だった。お面 も、勿論売っていた。紙製ではなく、セルロイド製のキャラクターものだ。風車、風船が付いていて、けたたましく「ブーッ」と鳴る笛、伸びたり縮んだりする紙の笛などの「お祭り系おもちゃ」と一緒に売られていた。ままごと道具をバラで売っている店もあった。鈴ばかり売っている店もあった。大人たちはもっぱら、墓場の横手の植木市の方を見て回っていた。
 私が好きだったのは、「付録屋さん」だ。どういうルートで仕入れていたのか、「小学二年生」などの学習雑誌や、「りぼん」「なかよし」などの漫画雑誌に付いている付録だけを売っている露店があった。二、三か月遅れたものが、売られていたように思う。値段は五十円くらいから、二、三百円くらいまで。テントは張らずに、地べたにムシロのようなものを敷いて、広く並べていた。
 学習雑誌の「立体組立ふろく」は出来上がり図が豪華で、かさもあって、なかなか魅力的な品だが、作り方が分からない。作り方は本誌に載っているのだ。その点、漫画雑誌の付録は、組立が簡単で、描いてあるキャラクターも可愛く人気があった。紙製のハンドバッグやら、キャリーボックスやら、バインダーといった実用的なものが多く、少女の心をくすぐる。毎月、買っていた漫画雑誌にいい付録が付くと、それが付録屋に並ぶのが待ち遠しくてならなかったのを覚えている。同じ物を二つも三つも持ってると嬉しかった。
 この付録屋は、ある時を堺に、何故かふっつり姿を消してしまった。

(2000年10月の個展『心の図鑑』より)


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